|パラリンピックは感動するものではなく興奮するものだった

オリンピックが終わるとパラリンピックが始まる。
オリンピックとパラリンピックが同じ都市で開かれることになったのは1964年の東京大会だとされるが、夏季も冬季も等しく同都市開催されるようになったのは割と最近のこと。
考えようによってはパラリンピックの歴史は浅いとも言えるが、だからこそ成長の余地があるとも言えるのかもしれない。
それ故なのかは分からないけれど、パラリンピックはオリンピックと比べるとメディアの扱いがほとんどない。最近の大会はダイジェストが放送されるようになったが、ほんの数十分のこと。スポーツを見るというシチュエーションには程遠いものがあった。

ワタシが初めてパラリンピックを目にしたのがいつなのかは全く記憶にない。
だけど、強烈過ぎるほど印象に残っている日本人選手がいる。冬季パラリンピックでバイアスロンとクロスカントリーに出場していた小林(井口)深雪さん。視覚障害者アスリートだ。
全力で滑った後に射撃する。体力を出し尽くしつつも、息が上がった状態で一気に集中力を高めなくてはならない。バイアスロンはとにかくハードな競技だ。それは健常者も障害者も同じこと。
ただ、視覚障害者のレースでは違う点が2つある。
ひとつはガイドスキーヤーの存在。ガイドスキーヤーの声によるナビゲートで進路や雪の状態を瞬時に理解しなくてはならない。適確な判断力、ガイドスキーヤーとの意思の疎通や信頼関係がモノを言う。
もうひとつはビームライフルを使用し的を音で判断するという射撃。ある一定の音の高さを聞き分け、一致した瞬間に撃つことで的に当たる。自分の呼吸や心臓の音など耳へ入る音の影響も少なくない中、耳とライフルを持つ両腕に全ての神経を集中させなくてはならない。
視力を使えない分、聴力を使う。使える機能を最大限に生かしきる。それを凝縮したのがこの視覚障害者によるバイアスロンだと感じた。
「失ったものを数えるな。残されたものを最大限に生かせ。」
パラリンピックが生まれるきっかけを作ったユダヤ系医師ルートヴィヒ・グットマンの言葉。
ワタシはこの時、この言葉を具現化した姿を見たことになるわけだが、それに気づいたのはつい最近の話。

それ以来ワタシはパラリンピックを意識的に見るようになった。
ただ、それは福祉番組としてのパラリンピックであり、スポーツとしてのパラリンピックではない。
そもそも障害者スポーツは、どうしてもリハビリやレクリエーションの延長というイメージを払拭するのが難しい。だから福祉番組としては成立するけど、スポーツとして見るには無理がある。
最近はテレビニュースのスポーツコーナーや新聞のスポーツ欄で結果を伝えられることが増えたが、それでも競技として見る環境はなかなか整わないのが現実だった。

しかしついにテレビやネットを通じて手軽に見られる環境が作られた。
スカパー!による24時間専門チャンネル。しかも、オンデマンドを利用すればパソコン・スマートフォンでも番組を視聴可能。生中継もアーカイブも見られる。
日本人選手の様子しか見られなかったダイジェストとは違い、全カテゴリ・全選手の競技を見られる。競技数の少ない冬季大会だからできるとも言えるが、それでもこんなに一気に進んだのかと驚愕した。
アルペンスキーでは滑降のスピードとスラロームの技に魅了され、クロスカントリーで坂道を走る時の力強さに圧倒され、バイアスロンで射撃の緊張感に息をのみ、アイススレッジホッケーでのぶつかり合いにヒヤヒヤし、カーリングでストーンの行方に一喜一憂する。
今回パラリンピックで初採用となったスノーボードクロス。パラリンピックでレースするということへの喜びが選手たちの様子からもうかがえた。
そこでワタシが目にしたのは普通のスポーツで、競技自体には感動なんかない。感じたのは興奮以外の何ものでもなかった。これを実感できたのは、ダイジェストではなく全選手の競技を等しく見ることができたからだ。
感動を得ないというわけではない。感動するようなエピソードは競技自体ではなく競技の外にあるのだ。選手の持っている背景に感動する。選手たちのスポーツマンシップに感動する。これらは恐らくどんなスポーツでも同じことなのだと思う。

やっと、やっと、本当の意味でパラリンピックを見た。
次はリオパラリンピック。
スカパー!はリオパラリンピック放映権のサブライセンスを既に取得しており、放送することも明言している。
冬季よりも競技数が多い夏季パラリンピックがどのように放送されるのか気になるところだが、今回「スポーツ」としてパラリンピックを中継したスカパー!の果たした役割を思えば、期待せずにはいられない。
もう少し敷居の低い地上波やBS放送でも多くの競技が放送されることで、パラリンピックの本当の姿が多くの人の目に触れれば、これに越したことはないんだけど。


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